健康診断でAST? ALT? γ-GTP?が高い!!って肝臓の何が悪いの?〜肝機能異常から見つかる脂肪肝炎、ウィルス性肝炎〜
2019年6月2日 日曜日健康診断で肝機能が異常で要精査と記載されたら、心配になりますよね。 肝機能異常は、健康診断で指摘されることが比較的多い異常です。 特に、γGTPが高いと「お酒のせいだろう」と考えて病院を受診しない方もいるかもしれません。 山内診療所では、総合内科・消化器内科の医師が、肝機能検査の結果からいろんな病気を考えて検査をしていきます。 実際に、検診で肝機能が悪く要精査となり病院を受診したことがきっかけで、C型肝炎に罹っていることがわかり、無事に治療された患者さんもいます。 今回、健康診断でAST・ALT・γGTP上昇などの肝酵素の異常があった場合に、医師はどのように考えているのか、典型的な患者さんを元に解説します。
Q:肝機能障害と言われたらどのような診察を受けるの?
医師は、健康診断などで肝臓の異常を指摘された患者さんが受診された際には、まずは詳細な問診を行います。
単に血液検査や画像検査だけでは診断が難しいことが多いからです。
患者さんに問診で質問する項目の例としては
・アルコールの摂取量:1日にどんな種類のお酒を、どの程度飲酒しているのか
・薬剤:普段常用している薬剤(市販の薬、サプリメントを含む)
→肝機能異常の原因として、アルコールや薬はよくある原因なので必ず聞きます。
・輸血をしたことがあるか
・刺青(タトゥー)があるか
→C型肝炎はずっと以前の輸血製剤、あるいは刺青などを介して感染する可能性があることから必ず聞きます。
・家族歴など家族に肝臓の病気の方がいるかなど質問する項目が沢山あります。
このような問診や診察の後に、考えられる病気を想定し検査を行います。
検査は、血液検査と画像検査(腹部エコー、CT、MRI)を行うことが一般的です。
また血液検査をくりかえす必要があるのか?と思われる方もいるかもしれません。
通常の血液検査で、ある程度どのような病気が想定できますが、診断の精度を上げるためには、病院で診断に必要な血液検査を再度する必要があります。
また血液検査でも原因がわからない場合などは必要に応じて、肝生検(針で肝臓の一部を取ってきて顕微鏡で詳しく検査を行うもの)を行います。
良くある典型的なケースを例にあげてみます
単なる脂肪肝と思いきや肝炎?〜非アルコール性脂肪肝炎のよくある1例〜
40歳 男性 身長:170cm 体重:90kg
会社の健康診断で肝機能異常を指摘され来院された。
会社の健康診断の血液検査
AST 50U/L(高い)、ALT 80U/L(高い)、LDH 193U/L、ALP 347IU/L、γ-GTP 47IU/L
T-bil 0.43㎎/dL、D—bil 0.30mg/dL
この患者さんは
・アルコール:付き合い程度の飲酒量
血液検査で、B型肝炎やC型肝炎などはなく、その他の異常はありませんでした。
画像検査で高度の脂肪肝と肝硬変が疑われ、最終的には肝生検を行い、非アルコール性脂肪性肝炎の診断となりました。
●非アルコール性脂肪性肝炎
脂肪肝と指摘されたことがある方は沢山いるのではないかと思います。実は、脂肪肝から、肝硬変になる方がいることをご存知でしょうか。
非アルコール性脂肪肝、つまり「脂肪肝」の状態から、何らかの原因により肝炎を生じ、肝硬変に至ります。「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」と呼ばれていますが原因はわかっていません。今後日本では、B型肝炎やC型肝炎による肝硬変は減少し、この非アルコール性脂肪性肝炎による肝硬変が増加するとされています。
アメリカでは、2020年には肝移植の原因として、非アルコール性脂肪性肝炎が一番多くなると推測されています。
非アルコール性脂肪性肝炎の定義は、
1. アルコールを(アルコール換算で男性:30g、女性:20g)以上飲んでいない
2. B型・C型肝炎ではない
3. 脂肪肝になる他の原因がないにもかかわらず、肝硬変になる状態を意味します。
非アルコール性脂肪性肝炎と診断するには、飲酒量が大切です。アルコール換算で男性で30g(日本酒なら1合半)、女性で20g(ビール中瓶1本500ml程度)以上飲んでいる場合は、「非」アルコール性脂肪肝ではなく、アルコール性脂肪肝となります。非アルコール性脂肪肝、つまり「脂肪肝」は、日本では1000万人以上いると言われており、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に進行する方は、100万人以上いるのではないかと考えられています。
・どのような人が非アルコール性脂肪性肝炎になるか
メタボリックシンドロームの原因と同じ、不規則な生活習慣や運動不足などが原因で生じると考えられています。
しかし、どうして脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝炎に進展するのかはわかっていません。
・治療
普段の食生活・運動・睡眠など生活習慣を改善することが大切です。
有効な薬はなく、肝硬変に進行した場合は肝移植などを検討する必要があります。
昔からの肝機能異常がいつのまにか肝硬変?〜慢性C型肝炎のよくある1例〜
60歳 男性 身長:165cm 体重:60kg
会社の健康診断で、以前から肝機能異常を指摘されていたが、特に病院受診はしていなかった。
血液検査
AST 90U/L(高い)、ALT 120U/L(高い)、LDH 193U/L、ALP 300IU/L、γ-GTP 47IU/L
T-bil 0.72㎎/dL、D-bil 0.20mg/dL、血小板 40万、PT 85%
この患者さんは
・アルコール:ビール350mlを週4回程度
・刺青(タトゥー):あり
血液検査で、血液中にC型肝炎ウイルスがいることが判明しました。
若い時に、刺青を入れて、その際にC型肝炎に感染したと考えられました。
エコー検査で肝臓は、肝硬変の状態にはなく、腹水(お腹に水が溜まっている状態)もありませんでした。
「C型肝炎」の診断となりました。
●C型肝炎
C型肝炎は、C型肝炎ウイルスの感染により起こる肝臓の病気です。日本で約100万人のC型肝炎患者がいると考えられています。慢性肝炎(肝臓の炎症が半年以上、続いている状態)になることが多く、慢性肝炎の原因の70%を占めます。治療しないと、徐々に肝硬変になり肝癌ができてしまうことがあります。年間約3万人が肝癌により亡くなっています。
・感染経路
HCVは感染者の血液を介して感染します。輸血・刺青(タトゥー)・違法薬物で感染することが多いです。また、1992年以前の輸血、1994年以前のフィブリノゲン製剤、1988年以前の血液凝固因子製剤を投与された方の場合は、C型肝炎に罹患している可能性があります。
・症状・血液検査
自覚症状はありませんので、C型肝炎なのかを調べるには、HCV(Hepatitis C virus:C型肝炎ウイルス)抗体検査を行う必要があります。
HCV抗体陰性・・・C型肝炎の感染はほぼ否定的といえます。
HCV抗体陽性・・・C型肝炎ウイルスに感染したことを意味します。
もしHCV抗体陽性であれば、HCV-RNA定量検査を追加して、現在も感染が持続しているのか検査を行います。
その後は、画像検査とC型肝炎ウイルスのタイプを検索して治療方法を決定します。
・治療
以前は、インターフェロンという副作用の多い薬を使用した治療が主でしたが、2014年9月からインターフェロンを使用しない、飲み薬だけの治療が登場しました。ウイルスの除去率は95%以上であり、インターフェロンのような副作用が少ない、まさに夢のような薬です。ただし、肝硬変が進行して、腹水などがある患者さんは適応外になります。
人間ドックをきっかけにB型肝炎ウィルスが発覚!?
40歳 女性 身長:155cm 体重:40kg
定期的な健康診断は受けたことがなく、40歳になったので人間ドックを受けたところ、肝機能異常を指摘された為に来院された。
血液検査
AST 75U/L(高い)、ALT 100U/L(高い)、LDH 193U/L、ALP 500IU/L(高い)、γ-GTP 150IU/L(高い)
T-bil 0.72㎎/dL、D—bil 0.30mg/dL、血小板 70万、PT 65%
この患者さんは
・アルコール:ビール1000mlを週5,6回程度とかなりお酒を飲んでいるので、アルコール性肝炎ではないかと最初は思うかもしれませんが、追加の血液検査で血液中にB型肝炎ウイルスがいることが判明しました。輸血や刺青などはなく、母子感染もありませんでした。若い時に、知らない間に、B型肝炎に感染したと考えられました。エコー検査で肝臓に異常はありませんでしたが「B型肝炎」の診断となりました。お酒を控えて頂き、しばらくして再び、血液検査をしましたが、依然として肝機能異常があることがわかり、核酸アナログというB型肝炎の内服治療を始めました。
●B型肝炎
B型肝炎ウイルスが血液・体液を介して感染して起きる肝臓の病気ですが、幼い時に知らない間に、感染してしまうことがあります。B型肝炎に一度感染した場合は、B型肝炎ウイルスを身体から完全に排除することはできません。
B型肝炎ウイルスに感染しても、B型ウイルスによる感染が一過性(一時的)に終わる場合と、感染が持続する場合があります。
★感染が一過性に終わるパターン・・・成人で感染した場合など
★感染が持続するパターン・・・・・・出産時の母子感染や乳幼児期の感染が多い
出産時または乳幼児期においてB型肝炎に感染すると感染が持続することが多く、思春期くらいまでは、無症状です。この状態を無症候性キャリアと言います。思春期を過ぎると自身で、B型肝炎ウイルスを排除し肝炎が起こります。肝炎は自然に改善し、多くの人は(90%程度)肝機能は安定したままです。しかし、残りの10%程度は慢性肝炎になり、肝硬変、肝癌になる可能性があります。
・血液検査
B型肝炎を調べるための検査項目は複数あります。健康診断などで調べている検査は、HBs(Hepatitis B surface)抗原です。B型肝炎にはかかっていないのか、過去にかかっているけど今は問題を起こしていないだけなのか、今も感染して問題となっているのかなどの、ウイルスの活動状態を調べるためには、やや複雑ですが、下記のような色々な免疫の検査を行い判断します。
★ HBs抗原
HBs抗原 陽性・・・B型肝炎に感染しています。
HBs抗原 陰性・・・B型肝炎に基本的には感染がないとして問題ありませんが、過去の感染など完全に否定はできません。
★ HBe抗原、HBe抗体
HBs抗原が陽性の場合に追加する検査です。
HBe抗原 陽性・・・B型肝炎ウイルス量が多く、人への感染の可能性が高いです。
HBe抗原 陰性・・・B型肝炎ウイルス量は少なく、人への感染の可能性は低いです。
★HBs抗体
陽性の場合は、二つのパターンがあります。
1.過去にB型肝炎に感染して治癒した人
2.B型肝炎ワクチンを接種した人
★HBc抗体
陽性の場合は、B型肝炎に現在または過去に感染したことを意味します。
★HBV-DNA
HBVのウイルス量を表します。
B型肝炎治療の目安になります。
・治療
核酸アナログ製剤
全てのB型肝炎の患者さんに必要なものではありません。ウイルス量が多く、肝機能(ALT)が上昇している場合に適応があります。核酸アナログ製剤を飲むと、ウイルス量は低下しますが、薬を中止すると肝炎は再燃します。しかも、核酸アナログ製剤を中止した場合、肝炎が急激に悪くなり、肝不全になり死亡する場合があります。核酸アナログ製剤を勝手に中止してはいけません。
・予防
★日本で行われているB型肝炎ウイルスに対するワクチン
1. 母子感染予防のためのワクチン
2. 医療従事者などに対するワクチン
3. 0歳児に対するB型肝炎ワクチン定期接種(2016年10月〜)
先ほど述べたように、B型肝炎は一度感染すると体内から除去はできません。予防に勝る治療はありません。幸い、B型肝炎に対するワクチンがあります。2016年からB型肝炎ワクチンの定期接種が開始となりました。ワクチンを接種するだけで予防できるので、ワクチンは是非打ちましょう。
どうでしたか?
肝機能が悪いと言っても、いろいろな病気を考えて医師は診療しています。
早期に病気が見つかることで、より早期に治療することが大切です。
健康診断で要精査となったら、一度は病院を受診して検査をしてみてください。
また、他にも普段の健康の悩みなどがあれば、総合内科の医師は、患者さん一人一人の状態に合わせて適切に検査・治療を行っています。